田上秀一 福井大学
名嘉山祥也 九州大学
植松英之 福井大学
齊藤卓志 東京工業大学
田中達也 同志社大学
辰巳昌典 (株)プラスチック工学研究所
橋爪慎治 (有)エスティア
酒井忠基 静岡大学
久家立也 (株)池貝
大田佳生 旭化成(株)
福澤洋平 (株)日本製鋼所
竹田宏 (株)アールフロー
谷藤眞一郎 (株)HASL
朝井雄太郎 アイ・ティー・エス・ジャパン(株)
山田紗矢香 (株)神戸製鋼所
清水博 (株)HSPテクノロジーズ
木原伸一 広島大学
滝嶌繁樹 広島大学
合田宏史 (株)プライムポリマー
森良平 GSアライアンス(株)
仙波健 (地独)京都市産業技術研究所
大峠慎二 トクラス(株)
伊藤弘和 (国研)産業技術総合研究所
福井武久 (株)栗本鐵工所
近年の樹脂材料への多様なニーズに対応するために、樹脂へ様々な機能性を付加した複合材料の開発が進んでいる。様々な複合材料の製造方法があるが、工業的に広範に用いられている手法は二軸押出機による溶融混練法である。この手法は古くから用いられている手法であるが、二軸押出機による溶融混練を語るときによく聞くフレーズが「最適な混合状態」である。例えば、二成分系の材料を混合する際の最適な混合状態はどういう状態であろうか? 機能性フィラーを混合する場合の最適な混合状態とはどのような状態であろうか? 答えは「機能が十分発揮される混合状態」であるが、その状態を実現させる決まった処方箋はなく、試行錯誤で検討されていることが多い。そのため、成果はノウハウとなり、企業などでは数多く検討されているにも関わらず表に出てこない技術である。特に、大きさが大変小さい機能性フィラーを溶融樹脂中に混合させる場合、フィラーが凝集するなどの問題があり、現在でもその検討が続いている。
本書は、現在でも検討課題として広く検討されている樹脂の溶融混練について、二軸押出機による溶融混練に着目し、その基礎論から最新動向まで、第一線で活躍されている研究者・技術者によりご執筆いただいたものである。まず、第1章では混練のメカニズムと題して、溶融混練の基礎的な内容について概説をいただいた。第2章では、押出機・混練技術動向と題して、先に述べた溶融混練で主として二軸押出機の技術動向について概説いただいた。第3章では、スクリュ設計と題し、ノウハウの塊であるスクリュ構成の最適化に関する概説をいただいた。第4章では、近年の技術開発で欠かすことのできないアイテムである計算機シミュレーションを利用した混練評価技術について概説いただいた。第5章では、ナノ粒子分散によるナノコンポジット製造と題し、困難な溶融混練問題のひとつであるナノオーダーの大きさをもつフィラーの分散技術について概説いただいた。第6章では、長繊維分散による複合材料製造と題し、現在注目を集めているセルロースナノファイバーや炭素繊維など高アスペクト比の繊維状フィラーを混合・分散させる技術動向について概説いただいた。本書が、溶融混練に携わる技術者、研究者にとってそれぞれが携わる諸問題の解決に少しでもお役に立てれば幸いである。
福井大学
田上秀一
第1章 溶融混練メカニズム
1 溶融混練の基礎理論と現状
1.1 はじめに
1.2 溶融混練における2つの過程
1.3 連続式溶融混練
1.3.1 単軸スクリュ押出
1.3.2 二軸スクリュ押出
1.4 溶融混練部内の流れの数値計算
1.5 溶融混練過程を定量化するには
1.5.1 分配混合
1.5.2 分散混合
1.6 溶融混練過程評価の例
1.7 おわりに
2 溶融混練における樹脂の粘度・温度の影響
2.1 はじめに
2.2 粘度とは
2.2.1 流れの様式 せん断流れと伸長流れ
2.2.2 粘度の定義 せん断粘度と伸長粘度
2.3 高分子流体の粘度は何に依存するのか
2.3.1 ひずみ速度依存性
2.3.2 温度依存性
2.3.3 分子量依存性
2.4 樹脂の粘度や温度が混合混練に影響を及ぼす事例
2.4.1 高粘度流体が分散相である二成分系の溶融混練(1)液液分散系の混練における粘度の影響
2.4.2 高粘度流体が分散相である二成分系の溶融混練(2)樹脂粘度を考慮した混練・分散の事例―Extensional Flow Mixer―
2.4.3 ポリマー/ナノフィラー系複合材料の溶融混練に及ぼす樹脂の粘度の影響(1)フィラーにクレーを用いた事例
2.4.4 ポリマー/ナノフィラー系複合材料の溶融混練に及ぼす樹脂の粘度の影響(2)フィラーに気相成長炭素繊維を用いた事例
2.5 おわりに
3 材料の溶融を考えるための伝熱基礎
3.1 はじめに
3.2 熱エネルギーのバランス
3.3 伝熱現象の基礎
3.4 樹脂材料の溶融について
3.5 熱物性値について(熱伝導率を例に)
3.6 熱エネルギー方程式の導出
第2章 押出機・混練技術動向
1 二軸押出機の変遷と最新の技術動向
1.1 混練技術・装置の変遷
1.2 二軸混練押出技術
1.2.1 混練用KDセグメント技術
1.2.2 高容量化と高トルク化技術
1.2.3 新たな混練用セグメント技術
1.3 おわりに
2 最近の押出機の開発動向と可視化解析押出技術
2.1 はじめに
2.2 最近の押出機の開発動向
2.3 可視化解析システム概要
2.4 可視化解析単軸押出装置
2.5 可視化解析二軸押出装置
2.6 終わりに
3 せん断分散における品質スケールアップと,品質スケールアップが不要な分散システム
3.1 はじめに
3.2 せん断分散における分散品質スケールアップ技術
3.3 伸長流動分散における分散品質
3.4 スラリー分散技術
3.5 LFP技術
3.6 各種ナノ分散システム
3.7 おわりに
4 二軸スクリュ押出機を用いたリアクティブプロセシング
4.1 二軸スクリュ押出機を用いたリアクティブプロセシングの優位点
4.2 リアクティブプロセシング実施例
4.3 ポリマーアロイのモルフォロジー形成に関連する要因
4.4 二軸スクリュ押出機内でのポリマーアロイのモルフォロジー形成
4.5 リアクティブプロセシングに用いるスクリュ形状の選定および操作条件の選定
4.5.1 スクリュエレメントの組み合わせ
4.5.2 各種材料の添加順序の選定
4.5.3 二軸スクリュ押出機を活用したリアクティブプロセシング操作と他の成形加工操作との複合化
4.6 まとめ
第3章 スクリュ設計
1 低温混練技術のためのスクリュデザインの最適化
1.1 はじめに
1.2 二軸押出機の構成
1.3 高速・低速回転時の樹脂温度比較
1.4 高トルク・高速回転・深溝化
1.4.1 高トルク
1.4.2 高速回転
1.4.3 深溝化
1.5 粘度とスクリュ形状の関係
2 同方向回転二軸押出機のスクリュ構成の最適化,混練条件の設定とスケールアップ
2.1 はじめに
2.2 同方向回転二軸押出機の装置概要
2.3 同方向回転二軸押出機の5つの混練要素について
2.3.1 スクリュの充満率
2.3.2 スクリュの圧力特性
2.3.3 温度計算
2.3.4 スクリュの混・練
2.3.5 押出機のシミュレーションの計算例
2.4 スケールアップの考え方
2.4.1 2~3乗則でスケールアップ時の課題
2.4.2 押出機の設計とスケールアップについて
2.4.3 分散混合と分配混合を使ったスケールアップ
2.4.4 まとめ
2.5 応用事例
2.5.1 スクリュ構成改良による溶融粘度比が大きな樹脂同士の分散性改良
2.5.2 混練ゾーンとベントポートの距離が短いためベントアップする場合の対策例
2.5.3 パウダー状樹脂のスクリュ構成による押出量の比較
2.6 おわりに
3 人工知能アルゴリズムを利用したスクリュデザインの自動最適化
3.1 はじめに
3.2 ディープラーニング(Deep Neural Network)
3.2.1 ディープラーニング(Deep Neural Network:DNN)とは
3.2.2 DNN教師あり学習
3.3 二軸スクリュデザインの自動最適化へのAI適用事例
3.3.1 二軸スクリュデザインの自動最適化へのアルゴリズム
3.3.2 実験と解析による教師データの作成
3.3.3 DNNによる学習ファイルの作成
3.3.4 AIによる推奨スクリュデザインの出力と検証実験
3.4 さいごに
第4章 シミュレーション・評価技術
1 二軸押出機の樹脂流動シミュレーション技術
1.1 はじめに
1.2 二軸スクリュ押出シミュレーション技術
1.3 FAN法シミュレーション
1.3.1 FAN法について
1.3.2 FAN法の基礎方程式
1.3.3 FAN法による二軸スクリュ混練シミュレーション
1.4 FEMによる3次元スクリュ流動解析
1.4.1 FEMについて
1.4.2 FEMの基礎方程式
1.4.3 FEMによる3次元スクリュ混練シミュレーション
1.5 粒子法シミュレーション
1.5.1 粒子法シミュレーションについて
1.5.2 MPS法の基礎方程式
1.5.3 二軸スクリュ押出機内における溶融樹脂の混練シミュレーション
1.6 さいごに
2 マクロとミクロをつなぐスクリュー押出機内流動解析
2.1 流動解析によるスクリュー押出機内流動状態の評価
2.2 粒子解析を利用したスクリュー特性評価とクリアランスに関する考察
2.3 クリアランス通過頻度の理論的予測
2.4 凝集粒子の粒径分布の予測
2.5 おわりに
3 コンピュータシミュレーションを利用した二軸スクリュ押出機内成形現象の可視化
3.1 はじめに
3.2 成形現象の定量化法
3.2.1 二軸スクリュ押出機モデリングツール
3.2.2 一般化Hele-Shaw流れの定式化
3.2.3 未充満状態の計算方法
3.3 二軸スクリュ押出機内成形現象の可視化例
3.3.1 未充満解析
3.3.2 繊維破断解析
3.4 おわりに
4 押出混練シミュレーション,樹脂挙動解析とスクリュ条件の求め方
4.1 セクションごとの役割と評価すべきパラメータ
4.2 フィード部,圧縮部,計量部,そしてミキシング部
4.2.1 フィード部で考慮すべき事
4.2.2 フィード部で評価すべき解析パラメータ
4.2.3 圧縮部で考慮すべき事
4.2.4 フィード部で評価すべき解析パラメータ
4.2.5 圧縮部にバリアフライトを設ける場合
4.2.6 バリア部で評価すべき解析パラメータ
4.2.7 計量部で考慮すべき事
4.2.8 計量部で評価すべき解析パラメータ
4.2.9 適切なせん断応力を得る為にできる事
4.2.10 ミキサーの要否と選択
4.3 まとめ
5 メッシュフリー法に基づく樹脂混練機内の非充満流動解析を活用した樹脂混練機セグメントの性能評価
5.1 はじめに
5.2 解析手法
5.2.1 支配方程式
5.2.2 離散化法(EFGM)
5.2.3 速度の近似関数
5.2.4 精度向上のための手法(計算点再配置)
5.3 提案した手法の精度の検証
5.3.1 同軸二重円筒クエット内完全充満流動
5.3.2 同軸二重円筒内の部分充満における流動
5.3.3 模擬混練実験との比較
5.4 混練評価への適用
5.4.1 混練実験と結果
5.4.2 流動解析手法と結果
5.4.3 流動解析を用いた混練性能評価
5.5 最後に
第5章 ナノ粒子分散によるナノコンポジット製造
1 高せん断成形加工技術を用いたナノコンポジット創製
1.1 はじめに
1.2 各種フィラーのナノ分散化の要因
1.3 熱可塑性エラストマー/CNT系ナノコンポジット
1.4 PVDF/PA6/CNT系ナノコンポジット
1.5 生分解性ポリマー/二酸化チタン系ナノコンポジット
1.6 PA11/層状ケイ酸塩系ナノコンポジット
1.7 熱可塑性高分子/炭素繊維/層状ケイ酸塩系ナノコンポジット
1.8 おわりに
2 高圧流体混練法によるCNTバンドルの解繊
2.1 はじめに
2.2 試料作製方法および試料評価方法
2.3 実験結果と考察
2.3.1 SCCO2およびN2雰囲気での混練によるCNTバンドル解繊効果
2.3.2 高圧流体混練法によるCNTバンドルの解繊メカニズム
2.4 まとめ
第6章 長繊維分散による複合材料製造
1 ガラス長繊維強化ポリプロピレン樹脂「モストロンTM-L」
1.1 はじめに
1.2 モストロンTM-Lとは
1.2.1 製造方法
1.2.2 特徴
1.3 材料設計に関する考え方
1.3.1 GFMBの材料設計
1.3.2 希釈樹脂(顔料の影響)
1.3.3 射出成形における機械物性(残存GF長と界面接着性)
1.4 GF配向を活かした設計支援
2 セルロースナノファイバーの応用と樹脂複合体マスターバッチ
2.1 セルロースとその研究背景
2.2 セルロースナノファイバーと各種樹脂との複合化
2.3 セルロースナノファイバー膜,紙
2.4 樹脂含浸法
2.5 全セルロース複合体
2.6 セルロースナノファイバーとゴムとの混合化
2.7 弊社においてのセルロースナノファイバービジネス
3 樹脂混練プロセスにおいて解繊されたセルロースナノファイバー/熱可塑性樹脂複合材料の特性
3.1 セルロースナノファイバーの特徴,性質と熱可塑性樹脂との複合化
3.2 CNF強化熱可塑性樹脂製造プロセス「京都プロセス」―セルロースの耐熱性とパルプ直接解繊―
3.3 京都プロセスにより製造されたCNF強化熱可塑性樹脂の特性
3.3.1 加工温度が低い汎用エンジニアリングプラスチックス
3.3.2 加工温度が高い汎用エンジニアリングプラスチックス
3.4 まとめ
4 バイオマスフィラーのプラスチックへの利用
4.1 はじめに
4.2 WPCの製造
4.2.1 WPCの原料
4.2.2 WPCのコンパウンド化
4.2.3 WPCの成形
4.3 WPCの性能
4.4 バイオマスフィラーを利用したプラスチックの展望
5 長繊維強化複合プラスチックの直接成形システム
5.1 はじめに
5.2 連続式二軸混練機について
5.3 直接成形システム・LFTDとは
5.4 CFの繊維長制御,高分散,長繊維化
5.5 成形事例の紹介
5.6 おわりに