境哲男 (独)産業技術総合研究所 ユビキタスエネルギー研究部門 上席研究員(兼)電池システム研究グループ グループ長(兼)エネルギー材料標準化グループ グループ長;神戸大学大学院 併任教授;(社)日本粉体工業技術協会 電池製造技術分科会 コーディネーター
岡田重人 九州大学 先導物質化学研究所 准教授
智原久仁子 九州大学 先導物質化学研究所 テクニカルスタッフ
中根堅次 住友化学(株) 筑波開発研究所 上席研究員
久世智 住友化学(株) 筑波開発研究所 主任研究員
藪内直明 東京理科大学 総合研究機構 講師
片岡理樹 (独)産業技術総合研究所 ユビキタスエネルギー研究部門 電池システム研究グループ
向井孝志 (独)産業技術総合研究所 ユビキタスエネルギー研究部門 電池システム研究グループ
稲澤信二 住友電気工業㈱ エレクトロニクス・材料研究所
シニアスペシャリスト,グループ長
沼田昂真 住友電気工業(株) エレクトロニクス・材料研究所
井谷瑛子 住友電気工業(株) エレクトロニクス・材料研究所
福永篤史 住友電気工業(株) エレクトロニクス・材料研究所
酒井将一郎 住友電気工業(株) エレクトロニクス・材料研究所 主査
新田耕司 住友電気工業(株) エレクトロニクス・材料研究所 主査
野平俊之 京都大学大学院 エネルギー科学研究科 エネルギー基礎科学専攻 准教授
萩原理加 京都大学大学院 エネルギー科学研究科 エネルギー基礎科学専攻 教授
小山昇 エンネット(株) 代表取締役
幸琢寛 (独)産業技術総合研究所 ユビキタスエネルギー研究部門
電池システム研究グループ 博士研究員
小島敏勝 (独)産業技術総合研究所 ユビキタスエネルギー研究部門 イオニクス材料研究グループ 主任研究員
上町裕史 (株)ポリチオン 代表取締役
辰巳砂昌弘 大阪府立大学 大学院工学研究科 物質・化学系専攻 教授
長尾元寛 大阪府立大学 大学院工学研究科 物質・化学系専攻
林晃敏 大阪府立大学 大学院工学研究科 物質・化学系専攻 助教
森下正典 (独)産業技術総合研究所 ユビキタスエネルギー研究部門 電池システム研究グループ
江田祐介 (独)産業技術総合研究所 ユビキタスエネルギー研究部門 電池システム研究グループ
坂本太地 (独)産業技術総合研究所 ユビキタスエネルギー研究部門 電池システム研究グループ
小島晶 神戸大学大学院 工学研究科 応用化学専攻
岩佐繁之 日本電気(株) スマートエネルギー研究所 主任研究員
佐藤正春 (株)村田製作所
目代英久 (株)本田技術研究所 四輪R&Dセンター
鋤柄宜 (株)本田技術研究所 四輪R&Dセンター 主任研究員
本間格 東北大学 多元物質科学研究所 教授
八尾勝 (独)産業技術総合研究所 ユビキタスエネルギー研究部門
新エネルギー媒体研究グループ 研究員
山縣雅紀 関西大学 化学生命工学部 助教
石川正司 関西大学 化学生命工学部 教授
永金知浩 日本電気硝子(株) 開発部 主管研究員
森田昌行 山口大学 大学院理工学研究科 教授
吉本信子 山口大学 大学院理工学研究科 准教授
高﨑智昭 川崎重工業(株) 車両カンパニー ギガセル電池センター 電池技術課 主事
西村和也 川崎重工業(株) 車両カンパニー ギガセル電池センター 電池技術課 課長
高性能二次電池の利用分野は、携帯機器用途から、自動車用へ、そして大型蓄電システム用へと広がっており、10兆円以上の産業に成長することが期待されている。中でも、携帯電話やスマートフォン、ノート型パソコンなど情報通信端末の普及は、世界的規模で進展しており、毎日100万台のモバイル端末が製造されているといわれている。これに用いられるリチウムイオン電池の年間生産量は約20GWh(販売金額1兆円以上)と推定され、正極材料に利用されるコバルトは約2万トンが消費され、これはその世界生産量の約20%に達する。これに加えて、2020年頃には電気自動車やプラグインハイブリッド自動車の世界販売量も300万台以上に拡大することが予想され、電池生産量(60GWh以上)も現行の携帯機器用途の3倍以上の規模となる。さらに、家庭用の蓄電システムの普及や、風力発電や太陽光発電の負荷変動吸収用や電力貯蔵用などでの利用も拡大するため、現状の5倍以上の電池生産が見込まれる。
このように、高性能二次電池は、省エネルギー技術や新エネルギー技術の導入においても不可欠であり、各国政府のエネルギー戦略や産業戦略とも深く係わっている。最近、国際情勢の流動化に伴い、希少資源や特定の国に偏在する資源については、価格の大幅な変動や、入手が困難となるリスクが顕著となっている。そこで、世界的に豊富に存在する資源を利用して高性能な二次電池を開発することが、安全保障上でも急務となっている。
第1章では、南米などに偏在するリチウム資源に代替して、海水中から豊富に採取できるナトリウムを利用した、ナトリウムイオン二次電池の開発状況を紹介する。エネルギー密度的には、現行のリチウムイオン電池の70%以下となるが、Li系材料よりも高温安定性に優れ、電力貯蔵用途などでは実用化が期待できる。
第2章では、資源的に豊富(わが国も世界6位の産出国)で、かつ、最高の理論容量を有するイオウについて、電極化技術の歴史と最近の開発状況を紹介する。最近開発されたイオウ系複合正極においては、寿命特性や高温安定性、安全性などに優れ、EV用や電力貯蔵用などでの実用化が期待される。
第3章では、世界的に豊富に産出し、低コストで、かつ、最高の理論容量を有するシリコンについて、電極化技術の現状と課題などを紹介する。金属シリコンと高性能バインダ、高強度集電体などの開発を同時に行うことで、従来の黒鉛系負極の5倍以上の高容量化を実現しながら、寿命特性や熱安定性、安全性などに優れた次世代負極が開発されつつある。また、理論容量が、従来のリン酸鉄材料の2倍近く、かつ、高温での酸素の安定性に優れたシリケート系正極についても、新材料開発と性能向上が進められている。
第4章では、金属を使用しない各種の有機系正極材料について、反応機構や開発状況、実用化の課題などについて紹介する。有機材料では、体積エネルギー密度が低下する傾向があるが、電池の完全メタルフリー化も可能であり、新しい応用展開も期待される。
第5章では、ガラス溶融プロセスを用いたリン酸鉄材料について紹介する。安価な酸化鉄を出発材料に用いることができ、かつ、磁性不純物が少ない利点がある。
第6章では、マグネシウム二次電池の研究開発状況と課題を解説する。まだ基礎研究の段階であるが、2電子反応であるので、高容量化の可能性を秘めている。
第7章では、産業用大型電池やハイブリッド自動車で広く利用されているニッケル水素電池について、正極および負極材料からレアメタルであるコバルトを除外する新材料開発について紹介する。コバルトフリー化は、低コスト化とともに、電池の出力特性や自己放電特性、過放電特性を大幅に向上させるなど、大きなメリットが見出されている。
このように資源戦略上からレアメタルフリー化を目指した新材料開発が行われてきているが、従来の電池材料の「常識」を大きく超えて、飛躍的な「高性能化」と「高安全性」を実現できつつある。電気自動車や大型蓄電システムの本格普及においては、低コスト化とともに、高安全性と10年以上の寿命が求められ、レアメタルフリー二次電池の実用化に大きな期待が寄せられている。新材料技術を結集した次世代二次電池の実用化は、わが国の国際競争力の向上と電池利用分野の拡大に不可欠であり、本書がその一助となれば幸いである。
2013年3月
境哲男
第1章 ナトリウムイオン電池用材料の研究開発
1 材料開発1 岡田重人,智原久仁子,中根堅次,久世智
1.1 ポストリチウムイオン二次電池の背景
1.2 ナトリウムイオン電池用正極候補
1.2.1 層状岩塩酸化物NaFeO2
1.2.2 層状硫化物TiS2
1.2.3 パイライト型硫化物FeS2
1.2.4 フッ素化ポリアニオン系Na3V2(PO4)2F3
1.2.5 有機系ロジゾン酸二ナトリウムNa2C6O6
1.3 ナトリウムイオン電池用負極候補
1.3.1 ナトリウム金属
1.3.2 金属系負極
1.3.3 炭素
1.4 ナトリウムイオン二次電池
1.5 まとめ
2 材料開発2 藪内直明
2.1 はじめに
2.2 材料設計における基本指針
2.3 層状酸化物
2.4 オキソ酸塩系材料
2.5 まとめ
3 材料開発と電池化 片岡理樹,向井孝志,境哲男
3.1 諸言
3.2 正極材料
3.3 負極材料
3.4 Na0.95Li0.15(Ni0.15Mn0.55Co0.1)O2/Sn-Sb硫化物系ナトリウムイオン電池の充放電特性と安全性評価
3.5 まとめ
4 FSA系溶融塩電解質電池 稲澤信二,沼田昂真,井谷瑛子,福永篤史,酒井将一郎,新田耕司,野平俊之,萩原理加
4.1 はじめに
4.2 MSBの現状
4.2.1 アルカリ金属ビス(フルオロスルフォニル)アミド塩の電池電解液への適用
4.2.2 充放電特性
4.2.3 フローティング充電特性
4.2.4 組電池の試作
4.3 電池の安全性に関する検討
4.4 まとめ
第2章 イオウ系材料の研究開発
1 イオウ系正極の開発状況 小山昇
1.1 はじめに
1.2 結合およびレドックス活性
1.3 単体硫黄のレドックス特性
1.4 硫黄化合物のレドックス電位による分類
1.4.1 第一グループの有機物
1.4.2 第二グループの有機物
1.4.3 第三グループの有機物
1.5 おわりに
2 有機硫黄系正極の研究開発 幸琢寛,小島敏勝,境哲男
2.1 はじめに
2.2 硫黄系正極について
2.3 硫黄系正極の課題
2.4 硫黄変性ポリアクリロニトリル正極材料の合成と電極・電池を用いた評価の概要
2.5 硫黄変性ポリアクリロニトリル材料の合成
2.6 硫黄変性ポリアクリロニトリルの材料特性
2.7 電極およびセルの作製と充放電試験条件
2.7.1 塗工電極
2.7.2 カーボンペーパーを集電体に用いた電極
2.7.3 電池構成
2.8 電極性能
2.8.1 SPAN電極のサイクル寿命
2.8.2 SPAN電極の入出力特性
2.8.3 SPAN電極の体積変化
2.9 SPAN/SiO系フルセルの電池性能
2.9.1 フルセル用Liプリドープ設計
2.9.2 サイクル特性
2.9.3 出力特性
2.9.4 温度特性
2.9.5 大型電池
2.10 SPAN正極を用いたその他の電池
2.10.1 全固体電池
2.10.2 メタルフリー電池
2.10.3 バイポーラ型電池
2.10.4 ナトリウムイオン二次電池
2.10.5 その他の有機硫黄系正極
2.11 SPAN/SiO系電池の安全性試験
2.11.1 釘刺し試験
2.11.2 過充電試験と発生ガスの分析
2.12 まとめと展望
3 硫黄導電性高分子「ポリチオン」 上町裕史
3.1 はじめに
3.2 硫黄系材料および有機系正極材の開発動向
3.2.1 硫黄
3.2.2 有機ジスルフィド化合物
3.2.3 含硫黄ポリマー
3.2.4 正極材料の高容量化:有機系正極材
3.3 ㈱ポリチオンの有機硫黄ポリマー
3.3.1 コンセプト
3.3.2 有機硫黄ポリマーの展開
3.4 合成ならびに製造法の検討
3.4.1 合成指針
3.4.2 製造に向けた取組み
3.5 電池特性
3.6 化学構造と電子構造の評価
3.6.1 化学構造:結晶構造評価
3.6.2 電子構造XAFS評価
3.7 実用化製造検討
3.8 まとめと今後
4 硫化物無機固体電解質を用いた全固体硫黄系電池の開発 辰巳砂昌弘,長尾元寛,林晃敏
4.1 はじめに
4.2 硫化物ガラス系固体電解質を用いたバルク型全固体リチウム電池
4.3 硫黄系正極―銅複合体の全固体リチウム電池への応用
4.3.1 硫黄系正極材料を用いた全固体二次電池
4.3.2 単体硫黄―銅系複合体の作製と全固体Li/S電池
4.3.3 硫化リチウム―銅系複合体の作製と全固体Li/S電池
4.4 硫黄系正極―ナノカーボン複合体の作製と全固体リチウム電池への応用
4.4.1 単体硫黄―ナノカーボン複合体の作製と全固体Li/S電池
4.4.2 硫化リチウム―ナノカーボン複合体の作製と全固体Li/S電池
4.5 おわりに
第3章 シリコン系材料の研究開発
1 シリコン系負極材料 森下正典,向井孝志,江田祐介,坂本太地,境哲男
1.1 はじめに
1.2 Si負極を用いたセルの作製と評価
1.3 Si粉末の製造法について
1.4 各種Si負極の特性
1.5 Si負極の体積変化
1.6 LiFePO4正極/Si負極セル
1.6.1 入出力特性
1.6.2 高温・低温特性
1.7 高エネルギー密度形Li過剰正極/Si負極セル
1.7.1 初期特性とサイクル特性
1.7.2 釘刺し試験
1.8 おわりに
2 ケイ酸塩系正極材料の合成と電極特性 小島敏勝,小島晶,境哲男
2.1 はじめに
2.2 リチウムシリケート系材料の開発経緯
2.2.1 リチウムシリケートの材料研究
2.2.2 リチウムシリケートの電極材料としての検討
2.2.3 リチウムシリケート正極の熱的安定性
2.2.4 リチウムシリケートの合成方法とカーボン付与方法
2.2.5 リチウムシリケート正極材料の構造の研究
2.2.6 リチウムシリケート正極材料の計算化学研究
2.2.7 リチウムシリケート正極材料の世界的研究動向
2.3 シリケート系正極材料の特性
2.3.1 溶融炭酸塩を用いたリチウムシリケート系正極の合成
2.3.2 シリケート系正極材料の特性評価
2.3.3 Li2FeSiO4を用いた実電池の作製と評価
2.4 シリケート系正極材料の今後
2.5 まとめ
第4章 有機系材料の研究開発
1 有機ラジカル正極 岩佐繁之
1.1 まえがき
1.2 ラジカルポリマー正極
1.3 PTMA有機ラジカル電池の特性
1.4 エネルギー密度の向上(n型ラジカル材料)
1.5 むすび
2 多電子系有機二次電池 佐藤正春,目代英久,鋤柄宜
2.1 はじめに
2.2 高エネルギー密度有機二次電池の開発戦略
2.3 有機二次電池と多電子反応
2.4 ルベアン酸を活物質とする多電子系有機二次電池
2.5 ルベアン酸誘導体
2.6 多電子系有機二次電池の可能性
3 有機全固体電池 本間格
3.1 はじめに
3.2 有機活物質の多電子反応容量
3.3 有機活物質の高エネルギー密度特性
3.4 準固体電解質
3.5 有機分子の電極特性
3.6 全固体電池デバイス
3.7 全固体電池のサイクル特性
3.8 まとめ
4 キノン系有機正極 八尾勝
4.1 レアメタルフリー正極としての有機正極
4.1.1 はじめに
4.1.2 有機正極の先行研究
4.2 結晶性低分子有機正極
4.2.1 ジメトキシベンゾキノン
4.2.2 環拡張型キノン
4.2.3 インディゴ
4.3 ナトリウム電池やマグネシウム電池への適用
4.4 課題と今後の展開
5 天然高分子を用いた蓄電デバイス用材料の研究開発 山縣雅紀,石川正司
5.1 はじめに
5.2 天然高分子を用いたゲル電解質の開発
5.2.1 電気化学キャパシタ用ゲル電解質
5.2.2 リチウムイオン二次電池用ゲル電解質への展開
5.3 天然高分子を用いた複合電極の開発
5.3.1 電気化学キャパシタ用活性炭複合電極の開発とその高出力特性
5.3.2 リチウムイオン電池用複合電極に対する天然高分子バインダーの可能性
5.4 おわりに
第5章 ガラス結晶化法によるリン酸鉄正極材料の開発 永金知浩
1 はじめに
2 LFP結晶化ガラスの製造プロセス
3 LFP結晶化ガラスの構造
4 LFP結晶化ガラスの電池特性
5 まとめ
第6章 マグネシウム二次電池材料の研究開発
~現状と課題 森田昌行,吉本信子
1 はじめに
2 負極材料のための電解質設計
2.1 マグネシウムイオン電池用負極材料の電解質設計
2.2 マグネシウム金属負極の電解質設計
2.3 電解質の固体化
3 正極材料のための電解質設計
4 おわりに
第7章 ニッケル水素化物電池のレアメタルフリー化 高﨑智昭,西村和也,境哲男
1 諸言
2 産業用大型Ni-MH電池
3 合金負極のコバルトフリー化
4 ニッケル正極のコバルトフリー化
5 電極のファイバー化によるコバルトフリー化
6 おわりに
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