「21世紀は水の時代」と言われ,「20世紀は石油の時代」と対比して語られている。これは,世界人口の増加,生活水準の向上,都市への人口集中,さらには気候変動の影響などから世界的な水不足が発生し,20世紀には石油資源をめぐり国際紛争が発生したが,21世紀は水争奪がその火種になりかねないとの認識を言い換えた言葉である。また,国連のミレニアム開発目標として,2015年までに安全な飲料水と衛生施設を継続的に利用できない人口の半減が設定され,世界的に水の重要性が再認識された。その結果,世界の水をめぐるビジネスは極めてダイナミックに変化しつつある。
一方,日本国内の水ビジネスを見ると,人口減少と国内産業空洞化の影響を受け,使用水量が減少に転じている。また,長年の設備投資努力,環境意識向上の結果,上下水道や産業向け水処理設備はほぼ行き渡り,設備の新設から維持メンテ,設備更新の時代に変わりつつある。また,政府や地方自治体の財政難から,公共事業に投入出来る金額が減少し,従来の発注方法や運営方法を維持出来ない現実に直面している。そのため,PFIとかPPPと称される民間からの投資と設備建設,運営手法を取り入れる時代に突入した。実はこのような国内事情の変化は日本だけではなく,先進各国に共通の変化だと言えよう。
このような環境の変化に対し,いち早く対応して国内市場から世界市場に進出した欧米の水メジャーやグローバル企業に対し,日本の水関連企業が出遅れた感は否めない。優れた技術をもつ日本企業が世界市場で高シェアを獲得している分野もあるが,多くの日本企業は国内市場に留まっている。また水ビジネス最大の市場と言われる維持管理・運営事業への取組みも遅れている。そのため,ここ数年,オールジャパン体制で世界の水関連市場に切り込み,遅れを挽回すべきと指摘や報道が多くなされている。
本書では,世界の水問題とその変化を俯瞰し,水ビジネスに関わる各分野の市場動向や市場規模の予想,国内および国際的な水処理ビジネスの動向に関してまとめた。特に後者に関しては,一般の報道とは違う感触もあり,今後の水処理ビジネス展開に参考になると思われる。
水は生命・人間活動に必須の物質である。しかしだからこそ高価な技術を利用して高価な水を作り出しても無意味という特性もある。ここ数年,世界の水ビジネスに対する期待が大きく拡大したが,若干イメージ先行でバブルの様相もあった。これからは実際の市場と数字に基づき冷静に分析を行い,勝機を見いだす時期に突入するのではないかと思われる。
シーエムシー出版 編集部
第1章 大きな視点でみる“世界を取りまく水問題”
1 世界を取りまく水問題
2 水問題に対するCSR活動
第2章 水処理ビジネスの現状
1 国内ビジネス
2 民営化
3 新設から補修へ
4 水処理ビジネス関連で発言活動する団体
5 震災関連
6 放射能汚染の今後
7 地下水税と外国人土地所有問題
8 水ビジネスの国際市場
8.1 水メジャーの誕生
8.2 水メジャーは日本企業より事業範囲が広い
8.3 最近の市場動向
9 新規参入企業の状況
10 自治体・商社の参入
11 国際会議と標準化プロセスへの参画
第3章 水処理薬品・材料の市場
1 水処理薬品の概要
2 けいそう(珪藻)土
3 凝集剤
3.1 硫酸アルミニウム(硫酸バンド)
3.2 ポリ塩化アルミニウム(PAC)
3.3 ポリ硫酸第二鉄(「ポリテツ」)
3.4 ポリシリカ鉄(PSI:Polysilicate―Iron)
3.5 高分子凝集剤
3.6 ポリアクリルアミド(ポリアクリルアマイド)
3.7 その他の高分子凝集剤
4 第4級アンモニウム塩
5 酸化剤・還元剤
5.1 塩素系酸化剤
5.1.1 塩素(ガス・液体)
5.1.2 次亜塩素酸ナトリウム
5.1.3 二酸化塩素
5.1.4 次亜塩素酸カルシウム(さらし粉・高度さらし粉)
5.1.5 塩素化イソシアヌル酸塩
5.1.6 クロラミン
5.2 酸素系酸化剤
5.2.1 オゾン
5.2.2 過酸化水素
5.3 還元剤
5.3.1 ヒドラジン(ヒドラジン水和物・水加ヒドラジン)
5.4 その他の水処理薬品
5.4.1 キレート剤
5.4.2 消泡剤
5.5 その他の微生物制御・スライムコントロール剤
5.5.1 過酢酸
5.5.2 イソチアゾロン系化合物
5.5.3 2,2―ジブロモ―2―シアノアセトアミド(DBNPA)
5.5.4 その他
5.6 ブレンド剤・光触媒
5.6.1 ブレンド剤
5.6.2 光触媒
6 水処理用機能材
6.1 イオン交換体(イオン交換膜・イオン交換樹脂・イオン交換繊維)
6.1.1 イオン交換膜
6.1.2 イオン交換樹脂
6.2 活性炭
6.3 水処理用分離膜・ろ過膜
6.3.1 MF膜(Micro Filtration Membrane:精密ろ過膜)
6.3.2 UF膜(Ultra Filtration Membrane:限外ろ過膜)
6.3.3 NF膜(Nano Filtration Membrane:ナノろ過膜)
6.3.4 RO膜(Reverse Osmosis Membrane:逆浸透膜)
6.3.5 会社動向
6.3.6 開発動向
第4章 水処理装置・設備
1 上水道(水道)・地下水ビジネス
2 下水道
2.1 概要
2.2 処理方法
2.3 市場・企業動向
3 再生水
3.1 概要
3.2 再利用方式
3.3 国内の下水再利用実績
3.4 海外における下水再利用実績
4 海水淡水化装置
4.1 概要
4.2 市場動向
5 産業用水処理装置
5.1 概要
5.2 処理方法
5.3 市場・企業動向
6 浄化槽
6.1 概要
6.2 市場・企業動向
7 浄水器(家庭用・業務用)
7.1 概要
7.2 浄水器の機能
7.3 家庭用浄水器の処理方式・製品形式
7.4 市場動向
8 海洋深層水
8.1 概要
8.2 産業利用
8.3 放射性物質放出の影響に関して
9 ミネラルウォーター
9.1 概要
9.2 市場動向
10 バラスト水処理
第5章 世界の水ビジネス
1 中国の水市場
2 他の諸国の水市場
第6章 今後の動向
1 開発動向
2 企業動向
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