プラスチックの発泡体は軽量で強度があるため、剛性を持った部材としての使用が拡大しています。そもそもヒトの体重のわずか7%しかない骨が人体を支えているのは骨の内部が多孔質構造になっているからです。プラスチック発泡体は強度が高く重量が軽い材料の一つとして開発が進められており、自動車部品をはじめとして、広く実用化されてきました。特に超臨界流体を用いた微細発泡成形の技術は誕生してから20年以上が経過し、ようやく用途が拡大してきています。
プラスチックの発泡を理解するには、マトリックス樹脂の特性、気泡の発生・成長の挙動、装置の設計・制御などの多くの技術要素を必要としており、研究者・技術者が学ぶ必要がある事項は多岐にわたっています。常々プラスチックの発泡成形技術の全体を俯瞰できる教科書が必要であると感じていたところ、㈱シーエムシー出版様よりお声かけをいただきました。
私には少し重荷とも感じましたが、私のミッションである「優れたものづくり技術を伝え・教え・広める」に合致していることもあり、せっかく引き寄せたチャンスですから喜んで引き受けることにしました。
さて、本書は発泡樹脂の基礎、気泡構造制御、発泡樹脂成形に用いられる発泡剤、発泡成形技術、応用展開で構成されています。第1章の発泡樹脂の基礎では発泡樹脂の概要と発泡成形に用いる樹脂材料に求められる特性について解説しています。第2章の気泡構造制御では気泡形成のメカニズムやシミュレーションについて解説しています。このような知見は地道なバッチ発泡の可視化実験の蓄積から得られたものです。第3章の発泡樹脂成形に用いられる発泡剤では代表的な化学発泡剤、物理発泡剤(超臨界流体を含む)について解説しました。第4章の発泡成形技術では代表的な成形技術である射出発泡成形と押出発泡成形を中心に解説しました。射出発泡成形では特に近年注目されているコアバック発泡成形システムを別な項として詳しく解説しています。第5章の応用展開では発泡用の新規材料の紹介としてポリアミドとポリプロピレンを挙げました。特にポリプロピレンにおいては各社が発泡専用銘柄の製造を中止してきた中で、最近になって新しい技術によって再投入されてきていることは喜ばしいことです。第5章ではさらに用途展開として、自動車用途、飲料容器(発泡ブロー成形による)、ポリイミドの電波吸収体について解説しました。
必ずしも発泡樹脂の全てを網羅している訳ではありませんが、間違いなく発泡樹脂に係る技術者が必要とする情報の入り口になっていると確信しています。
本書が読者の皆様のお役に立つことを期待しています。
2015年9月
秋元英郎
第1章 発泡樹脂の基礎
1 発泡樹脂とは (秋元英郎)
1.1 発泡樹脂の形態
1.2 自然界に存在する多孔質体
1.3 工業的に多孔質構造を得る方法
1.4 各種発泡成形法
1.4.1 ビーズ発泡
1.4.2 バッチ発泡
1.4.3 プレス発泡
1.4.4 常圧二次発泡
1.4.5 発泡ブロー
1.4.6 射出発泡
1.4.7 押出発泡
1.5 発泡樹脂が持つ利点
1.6 代表的な発泡製品
1.6.1 発泡ポリスチレン
1.6.2 発泡ポリエチレン
1.6.3 発泡ポリプロピレン
2 発泡成形に関連する樹脂のレオロジー特性と制御 (杉本昌隆)
2.1 はじめに
2.2 レオロジーの基礎
2.2.1 ひずみ
2.2.2 変形速度
2.2.3 応力
2.3 理想弾性体と理想粘性体
2.4 粘弾性モデル
2.5 プラスチック溶融体のレオロジー
2.5.1 動的粘弾性
2.5.2 温度時間換算則
2.5.3 伸長粘度
2.5.4 発泡成形と粘弾性
第2章 気泡構造制御
1 発泡成形における気泡形成のメカニズム (木原伸一, 孫穎, 滝嶌繁樹)
1.1 はじめに
1.2 核形成理論
1.2.1 核形成の熱力学
1.2.2 古典的核形成理論
1.2.3 定常核生成
1.2.4 速度論的核形成理論
1.2.5 界面張力の影響
1.3 高分子発泡過程における均一気泡核形成
1.3.1 超臨界流体/高分子系の物性
1.3.2 発泡開始圧力
1.3.3 減圧プロセスによる均一気泡核形成
1.3.4 古典的核形成理論による気泡数密度の推定
1.3.5 気泡形成モデルの課題
1.4 おわりに
2 発泡成形における気泡成長の粘弾性解析と発泡制御 (大槻安彦)
2.1 はじめに
2.2 気泡成長挙動の解析
2.2.1 発泡成形における気泡成長の解析
2.2.2 粘弾性特性の影響
2.2.3 その他支配因子の分析
2.3 延伸破泡,気泡の合一のシミュレーション
2.3.1 発泡成形における延伸破泡,気泡の合一
2.3.2 歪硬化性の影響
2.3.3 緩和時間の影響
2.4 射出発泡成形の解析
2.4.1 射出発泡成形
2.4.2 フローフロントのシミュレーションを用いた発泡挙動の予測
2.5 おわりに
3 発泡成形シミュレーション (後藤昌人)
3.1 はじめに
3.2 CAEの現状
3.3 発泡の理論と支配方程式
3.4 実サンプルと解析の比較
第3章 発泡樹脂成形に用いられる発泡剤
1 熱分解型化学発泡剤の種類とそれぞれの特性 (岩崎大)
1.1 はじめに
1.2 主要な熱分解型化学発泡剤の特性
1.2.1 アゾジカルボンアミド(ADCA)
1.2.2 ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)
1.2.3 p,p’-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)
1.2.4 炭酸水素ナトリウム(重曹)
1.3 発泡剤の複合化
1.3.1 複数の化学発泡剤の複合化
1.3.2 添加剤による特性付加・改善
1.3.3 マスターバッチ化
1.4 化学発泡剤の選定
1.4.1 架橋・加硫などを伴う発泡成形における発泡剤の選定
1.4.2 非架橋での発泡成形における発泡剤の選定
1.4.3 発泡剤の粒度
1.5 おわりに
2 物理発泡剤・超臨界流体 (依田智)
2.1 はじめに
2.2 物理発泡と物理発泡剤
2.3 超臨界流体と超臨界発泡
2.3.1 超臨界流体
2.3.2 超臨界発泡
2.4 主な物理発泡剤
2.4.1 フロン
2.4.2 炭化水素
2.4.3 二酸化炭素
2.4.4 窒素
2.4.5 混合系,添加剤その他
2.5 おわりに
3 熱膨張マイクロカプセル (秋元英郎)
3.1 熱膨張マイクロカプセルの特徴
3.2 熱膨張マイクロカプセルの材料設計
3.3 商品化されている熱膨張マイクロカプセル状発泡剤
第4章 発泡成形技術
1 射出発泡成形技術 (秋元英郎)
1.1 射出発泡成形技術とは
1.2 射出発泡成形における発泡剤供給方法と設備構造
1.2.1 発泡剤を含浸した樹脂を用いた射出発泡成形
1.2.2 発泡剤と樹脂をともに投入して行う射出発泡成形
1.2.3 不活性ガスを発泡剤として用いる射出発泡成形
1.3 射出発泡成形のショートショット法とフルショット法
1.4 ストラクチュアルフォーム
1.5 コアバック法による高発泡倍率化
1.5.1 コアバック法の金型
1.5.2 コアバック法の気泡制御
1.5.3 コアバック発泡による軽量化
2 微細射出発泡(MuCell)成形技術 (秋元英郎)
2.1 微細発泡成形とは
2.2 微細発泡成形と超臨界流体
2.3 バッチプロセスによる微細発泡
2.4 成形プロセスで行う微細発泡の基本原理
2.5 微細射出発泡成形のための設備
2.6 微細射出発泡成形の利点
2.6.1 軽量化
2.6.2 薄肉化
2.6.3 ソリ・ヒケ解消
2.6.4 寸法精度向上
2.6.5 型締力低減
2.6.6 成形サイクル短縮
2.7 利点を引き出す金型・製品設計
2.8 微細射出発泡成形のトラブルシューティング
2.8.1 ブリスター
2.8.2 後膨れ
2.8.3 スワールマーク
2.9 微細射出発泡成形専用の材料
2.10 微細射出発泡成形の用途
2.11 今後の可能性
3 コアバック発泡成形システム (宮本和明)
3.1 はじめに
3.2 コアバック発泡成形動作
3.2.1 金型キャビティ拡張開始タイミング
3.2.2 発泡核形成
3.2.3 拡張遅延
3.2.4 発泡セル成長
3.2.5 冷却保持工程
3.3 コアバック発泡成形機
3.4 発泡成形品外観不良(発泡スワルマーク)の改善
3.4.1 射出発泡成形+金型ガスCP
3.4.2 射出発泡成形+表皮加飾成形
3.5 おわりに
4 押出発泡成形技術 (辰巳昌典)
4.1 はじめに
4.2 押出発泡技術概要
4.3 発泡押出に利用される超臨界流体
4.4 超臨界流体供給装置
4.5 発泡メカニズム
4.6 ダイス形状と発泡特性
4.7 スクリューデザインと発泡特性
4.8 押出精度
4.9 配合および成形条件と発泡特性
4.10 おわりに
第5章 応用展開
1 自動車の軽量化 (秋元英郎)
1.1 はじめに
1.2 内装部品
1.2.1 インスツルメントパネル
1.2.2 ドアトリム
1.2.3 サンバイザー
1.3 センタークラスター周辺部品
1.4 外装部品
1.5 エンジンルーム部品
1.5.1 HVAC
1.5.2 エンジンカバー
1.5.3 ファンシュラウド
1.6 機能部品
1.6.1 衝撃吸収パッド
1.6.2 エアダクト
1.6.3 ドアキャリア
2 発泡成形に適したポリアミド樹脂の開発 (吉村信宏)
2.1 はじめに
2.2 ポリアミド(PA)樹脂の位置づけ
2.3 軽量化に向けた材料開発のコンセプト
2.4 発泡成形法について
2.5 超臨界流体を用いた射出発泡成形方法(Mu-Cell)
2.6 ポリアミド樹脂と射出発泡成形
2.7 改質の手法について
2.8 ひずみ硬化+αでの改質
2.9 発泡成形品の各種性能
2.10 採用事例
2.11 今後の展開(工法と発泡剤)
2.12 おわりに
3 発泡成形用ポリプロピレン樹脂 (飛鳥一雄, 梅森昌樹)
3.1 はじめに
3.2 発泡成形におけるPPの課題
3.3 粘弾性挙動
3.4 押出発泡成形性
3.4.1 Tダイ発泡成形
3.4.2 サーキュラーダイ発泡成形
3.5 リサイクル性
3.6 おわりに
4 飲料容器 (市川健太郎)
4.1 はじめに
4.2 微細発泡手法とPETボトル成形プロセスでの課題
4.2.1 発泡剤
4.2.2 発泡プロセス
4.3 微細発泡PETボトル「Fi-Cell」の成形プロセス
4.3.1 ボトル成形プロセス
4.3.2 開発法の微細・多セル化効果
4.4 微細発泡PETボトル「Fi-Cell」の特徴,性能
4.4.1 リサイクル性,食品衛生性
4.4.2 加飾
4.4.3 遮光
4.4.4 口部非発泡
4.4.5 表面平滑
4.4.6 容器性能
4.5 着色剤との組合せ
4.6 おわりに
5 発泡ポリイミドを用いたミリ波帯用軽量耐熱電波吸収体 (坂田聡史)
5.1 はじめに
5.2 ポリイミドとは
5.3 発泡ポリイミド「SKYBOND®フォーム」とは
5.3.1 発泡倍率のコントロールが可能
5.3.2 厚みのコントロールが可能
5.4 発泡ポリイミド電波吸収体
5.5 広帯域電波吸収特性
5.6 広角度電波吸収特性
5.7 おわりに