中山 弘 大阪市立大学 工学研究科 教授;(株)マテリアルデザインファクトリー 代表取締役
植田吉彦※ (株)大阪真空機器製作所 堺技術部 真空装置グループ 専門技師
小川倉一 三容真空工業(株) 技術顧問;小川創造技術研究所 代表
小島啓安 (有)アーステック 代表取締役;名古屋大学 客員准教授
松原和夫 (株)セルバック 代表取締役
澤田康志 エア・ウォーター(株) 総合開発研究所 部長
沖本忠雄 (株)神戸製鋼所 機械事業部門 開発センター 商品開発部 主任部員
幾原志郎 (株)麗光 技術部 技術2課 課長
永井伸吾 尾池工業(株) フロンティアセンター 主任研究員
大谷新太郎 (株)日立ハイテクノロジーズ 科学システム営業統括本部 テクニカルサポートコンサルタント;(有)ホーセンテクノ 取締役
松原哲也 八洲貿易(株) 第一事業本部
楳田英雄 住友ベークライト(株) 神戸基礎研究所 研究部 主席研究員
井口惠進 (株)テクノ・アイ 代表取締役
島田敏宏 北海道大学 工学研究院 教授
辻井弘次 ジーティーアールテック(株) 企画開発部 部長
吉田哲男 帝人デュポンフィルム(株) フィルム技術研究所 フィルム研究室 室長
福武素直 (株)プライマテック 応用技術開発
宮本知治 住友ベークライト(株) フィルム・シート研究所 所長
石井良典 グンゼ(株) 開発事業部 光学フィルム開発営業センター F1フィルム開発営業課 課長
松本利彦 東京工芸大学 工学部 生命環境化学科 教授
奥山哲雄 東洋紡績(株) 総合研究所 コーポレート研究所 IT材料開発グループ
池田功一 日本ゼオン(株) 高機能樹脂・部材事業部 高機能樹脂販売部 課長代
※植田吉彦先生の[吉]の字の上部は、正しくは[土]になります。
近未来のデバイスであるフレキシブル有機ELやフレキシブル有機太陽電池など有機材料を用いるデバイスでは,大気中の酸素,水蒸気を遮断するために,ガラス並みに酸素や水蒸気の透過を阻止する,いわゆる超ガスバリアフィルムの開発が求められています。超ガスバリアフィルムの実現のためには,酸素,水蒸気などの分子の固溶と拡散を抑制した超ガスバリア層をプラスチックフィルム上に被膜する最先端プロセス技術と,吸水性が低く,線膨脹係数が小さい,耐熱透明フィルムの製造技術,フィルム表面の平坦化処理技術,フィルム貼り合わせ技術,超ガスバリア特性評価技術,ロールツーロールドライ成膜装置などの先端技術が必要とされています。しかしながら,超ガスバリアフィルムを必要とするフレキシブル有機デバイスの商品化が進んでいないこともあって,超ガスバリアフィルム自体の商品化と製造技術の確立が進んでいません。
一方,当面の市場として,太陽電池用耐候性バックシート,電子ペーパー用防湿フィルムなどの分野で,従来のハイバリアと超ガスバリアの中間グレードのバリアフィルム,いわば“ハイグレードバリアフィルム”(水蒸気透過率,WVTR=0.0001~0.01g/㎡/day)が求められています。将来的には巨大な市場が予測されるため,ガスバリアフィルム分野では,水面下で激しい開発競争が行われています。そのため,学会や研究会などでのオープンな討論や情報交換ができにくい状況にあります。しかし,ハイグレードから超ガスバリアレベルでの評価法の確立と仕様の標準化,商品化のための成膜法の検討,製造装置の開発等においては企業や研究機関の利害と競争を超えた技術協力が求められています。そのためには大学や公的研究機関の連携も必要です。
本書がハイグレードガスバリアフィルムから超ガスバリアフィルムの研究開発における情報交換の場となり,フィルムベースエレクトロニクス産業の発展と飛躍に寄与できることを願っています。また,多忙な中,快く原稿執筆をお引き受けいただいた執筆者の皆様に深く感謝いたします。
「巻頭言」より
第1編 ガスバリア薄膜技術
第1章 ガスバリア薄膜技術の基礎
(中山 弘)
1 ガスバリアフィルムの分類と用途:序にかえて
2 低温成膜の物理と問題点
3 低温成膜法の比較
4 プラスチックフィルム基板とガスバリア層
5 有機触媒CVD法によるガスバリア層の形成
6 ガスバリア性を決める因子の検討
6.1 両面コートガスバリアフィルムの必要性
6.2 SiCN層の構造・組成最適化
6.3 水素の含有量の低減と最適化
6.4 超ガスバリアフィルムをめざして
7 まとめ
第2章 低温真空成膜技術
1 スパッタ法(植田吉彦)
1.1 はじめに
1.2 検討課題
1.2.1 ガスバリア膜の実用化にあたっての検討課題について
1.2.2 膜種
1.2.3 スパッタ成膜法
1.3 低温・低ダメージ成膜
1.3.1 スパッタ粒子のエネルギー低減
1.3.2 γ電子・負イオン・反跳アルゴン等高エネルギー粒子の入射及び輻射熱負荷対策
1.3.3 アーク発生及びアノード消失対策
1.3.4 MHV,N-MHVスパッタ法
1.4 今後の生産用装置について
2 有機触媒CVD(中山 弘)
2.1 はじめに
2.2 有機触媒CVDの原理
2.3 フィラメント反応の解析
2.4 有機触媒CVD法および装置
2.5 SiOC薄膜への応用
2.6 Cat-CVDのもう一つの応用:水素ラジカルを用いた表面処理
2.7 結論
3 イオンプレーティング法(小川倉一)
3.1 はじめに
3.2 イオンプレーティング(IP)法の特徴
3.2.1 イオンプレーティング
3.2.2 反応性イオンプレーティング法
3.3 イオンプレーティング法の分類
3.3.1 多陰極熱電子照射法
3.3.2 高周波励起法(RF法)
3.3.3 ホローカソード放電法(HCD法)
3.3.4 クラスターイオンビーム法(ICB:IonizedClusterBeam法)
3.3.5 活性化反応蒸着法(ARE:ActivatedReactiveEvaporation法)
3.3.6 マルチアーク法(AID法)
3.3.7 イオンビームアシスト蒸着法
3.3.8 電子ビーム励起プラズマ法
3.4 新しいイオンプレーティング法(IP法)と応用例
3.4.1 ホローカソード活性化高速蒸着法(HAD法)
3.4.2 低エネルギーイオンプレーティング(IP法)によるITO薄膜
3.5 まとめ
第3章 高速真空成膜技術
1 反応性高速スパッタ技術(小島啓安)
1.1 反応性スパッタとは
1.2 ヒステリシス,遷移領域について
1.3 遷移領域制御
1.4 インピーダンス制御
1.5 プラズマエミッション(PEM)制御
1.6 バリア膜でのPEM制御
2 誘導結合型-CVD(松原和夫)
2.1 はじめに
2.2 誘導結合型ICP-CVD
2.3 ロール対応誘導結合型-CVD
2.3.1 ロール対応ICP-CVD
2.3.2 バリア特性
2.3.3 光学特性
2.3.4 誘導結合型-CVDとPVDの比較
2.4 おわりに
3 大気圧プラズマCVD(澤田康志)
3.1 はじめに
3.2 大気圧プラズマ
3.2.1 誘電体バリア放電
3.2.2 アーク放電
3.3 大気圧プラズマ応用によるCVD薄膜の応用事例
3.4 TEOS,HMDSOを用いた大気圧プラズマCVD合成
3.4.1 実験方法
3.4.2 CVD薄膜の膜質評価
3.5 大気圧プラズマ連続CVD成膜装置
3.6 おわりに
第4章 真空ロールツーロール成膜技術
1 バリアフィルム用ロールツーロールプラズマCVD装置(沖本忠雄)
1.1 はじめに
1.2 フレキシブルバリア膜形成の課題
1.3 ロールツーロールプラズマCVD
1.3.1 動作原理
1.3.2 フレキシブルなバリア皮膜を形成できるCVDプロセス
1.3.3 低コンタミネーションプロセスによる安定性確保
1.3.4 優れた成膜効率,成膜速度と幅方向に対しての均一性
1.4 装置紹介
1.4.1 小型高機能CVDロールコータ(W35シリーズ)
1.4.2 生産用途への適用
1.5 まとめ
2 マルチターゲット型ロールツーロールスパッタ装置(小川倉一)
2.1 はじめに
2.2 ロールツーロールスパッタ装置の要素技術
2.3 縦型フィルム走行式スパッタ装置
2.4 マルチチャンバーマルチターゲットスパッタ装置
2.4.1 反応性スパッタリング技術
2.4.2 光学多層膜成膜例
3 成膜技術とバリアフィルムの応用(幾原志郎)
3.1 はじめに
3.2 成膜技術
3.2.1 成膜技術の現状
3.2.2 各種成膜方法とその膜特性
3.3 用途別特性
3.3.1 包装用フィルム
3.3.2 太陽電池用バックシート
3.3.3 その他の用途
3.4 おわりに
4 エレクトロニクスとガスバリアフィルム(永井伸吾)
4.1 はじめに
4.2 有機ELデバイスとガスバリアフィルム
4.3 太陽電池とガスバリアフィルム
4.4 ガスバリアフィルム基板
4.4.1 プロセス適性上の要求
4.4.2 設計上の要求
4.5 ラッピング材としてのガスバリアフィルム
4.6 封止における問題
4.7 おわりに
第2編 ガスバリアフィルム評価技術と高機能ベースフィルム
第1章 ガスバリア性評価技術
1 等圧法moconAQUATRANにおけるガスバリア性評価技術と測定例(大谷新太郎)
1.1 はじめに
1.2 装置の概要と測定原理
1.2.1 PERMATRAN(等圧法)
1.2.2 AQUATRAN(等圧法)
1.3 各種製品におけるガスバリア性要求レベル
1.4 超ハイバリア水蒸気透過度測定方法について
1.4.1 カップ法による評価法 (等圧法)
1.4.2 圧力法による評価法 (差圧法)
1.4.3 感湿センサー法による評価法 (等圧法)
1.4.4 モコン法による評価法(等圧法)
1.5 ガスバリア性評価の信頼性
1.5.1 装置の校正がなされ、測定結果が検証できること
1.5.2 システムリーク率(ゼロレベル)が確定されていること
1.5.3 測定温度、湿度の正確性
1.6 フィルム,シート形状での測定ポイント
1.7 有機EL,太陽・燃料電池関連部材開発におけるガスバリア性の評価
1.7.1 有機EL(OrganicElectro-Luminescence)
1.7.2 太陽電池(PhotovoltaicBattery)
1.7.3 燃料電池(FuelBattery)
1.8 おわりに
2 Lyssy(リッシー)(松原哲也)
2.1 はじめに
2.2 L80-5000型水蒸気透過度計
2.3 L100-5000型ガス透過度計
2.4 おわりに
3 カルシウム腐食法(楳田英雄)
3.1 はじめに
3.2 プラスチックフィルムの表面性
3.3 無機バリア成膜
3.3.1 フィルム表面性(形状)の影響
3.3.2 フィルム表面性(密着性)の影響
3.4 カルシウム腐食法による評価
3.4.1 水蒸気透過度の定量化
3.4.2 評価セルの概要
3.4.3 カルシウム腐食評価例
3.4.4 局所欠陥の構造解析
3.5 まとめ
4 差圧法による多面的バリア透過率測定(井口惠進)
4.1 はじめに
4.2 DELTAPERM
4.3 一般的な差圧法の問題点
4.4 おわりに
5 低温吸着・質量分析による高速・超精密評価法(島田敏宏)
5.1 はじめに
5.2 高感度測定のため要件
5.3 開発した装置の原理と性能
5.3.1 超高真空における水分子の検出
5.3.2 大気圧下の試料から透過した水蒸気を超高真空中の検出器に導く方法
5.3.3 冷却トラップの温度―水分,酸素,二酸化炭素に対する検討
5.3.4 測定手順
5.3.5 実験結果
5.4 まとめ
6 ガスクロマトグラフ法によるガス・水蒸気・蒸気・液体透過性測定法(辻井弘次)
6.1 はじめに
6.2 関連規格
6.3 測定方法
6.3.1 差圧式ガスクロマトグラフ法
6.3.2 等圧式ガスクロマトグラフ法
6.4 おわりに
第2章 エレクトロニクス用プラスチックフィルム
1 PENフィルム(吉田哲男)
1.1 はじめに
1.2 ポリエステルフィルムの製造工程と構造発現
1.3 基材用PENフィルム
1.3.1 透明性・表面性設計
1.3.2 一般物性設計
1.3.3 熱工程での取り扱い
1.4 テオネックスRの各種特性
1.4.1 フィルム外観
1.4.2 機械的性質
1.4.3 長期耐熱性
1.4.4 電気的性質
1.5 今後の開発動向と課題
2 液晶ポリマーフィルム(福武素直)
2.1 はじめに
2.2 適用可能な液晶ポリマーの選定
2.3 均一な分子配向制御技術
2.4 液晶ポリマーフィルムの特性
2.4.1 寸法安定性
2.4.2 吸水特性
2.4.3 ガスバリア性
2.4.4 耐薬品性
2.4.5 電気絶縁性
2.4.6 熱特性
2.4.7 機械特性
2.5 フィルム表面の平坦性をアップしたBIACフィルム
2.6 おわりに
3 バリアフィルム基板用PESフィルム(宮本知治)
3.1 はじめに
3.2 PES基板の耐熱性
3.3 PES基板の光学特性について
3.4 バリア性能へのPESフィルム特性の影響について
3.5 アンダーコート
3.6 おわりに
4 Fフィルム(石井良典)
4.1 はじめに
4.2 開発の背景
4.3 Fフィルムの特長
4.3.1 耐熱性
4.3.2 光学特性
4.3.3 低吸水率
4.4 タッチパネル向け電極フィルムへの応用
4.5 ガスバリアフィルムへの応用と実装評価
4.5.1 基材フィルムの平滑性とバリア性能
4.5.2 基材フィルムの吸水率とバリア性能
4.6 技術展望・製品展望
4.6.1 高耐熱化
4.6.2 高靭性・薄膜化
5 PI(透明ポリイミド)(松本利彦)
5.1 はじめに
5.2 ポリイミド着色の起源
5.3 無色透明ポリイミド
5.4 脂環式ポリイミドの作製法とフィルムの諸特性
5.5 ポリイミドの吸水率とガスバリア性
5.6 おわりに
6 薄膜形成基板としての低CTE(線膨張係数)ポリイミドフィルム(奥山哲雄)
6.1 はじめに
6.2 ポリイミドフィルム
6.3 XENOMAXRの物性
6.4 プロセス中のフィルム仮固定
6.5 まとめ
7 シクロオレフィンポリマー(池田功一)
7.1 はじめに
7.2 シクロオレフィンポリマーとは
7.2.1 ZEONEXR
7.2.2 ZEONORR
7.3 シクロオレフィンポリマーの特長と技術動向
7.3.1 透明性
7.3.2 耐湿性と水蒸気バリア性
7.3.3 耐候性付与技術
7.4 まとめ
第3章 ハイガスバリア性達成への技術開発例と課題
(小川倉一)
1 はじめに
2 ガスバリア性能と応用分野
3 ガスバリア膜の低温形成技術
3.1 真空を利用した薄膜形成法と特徴
3.2 バリアフィルム作製装置と形成例
4 ハイバリアフィルムの開発例
4.1 太陽電池用ハイバリアフィルム
4.2 プラスチックLCD用バリアフィルム
4.3 ナノ積層化・複合化による超ガスバリアフィルム
5 今後の展望
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