上野川修一 日本大学 生物資源科学部 食品生命学科 教授
南野昌信 (株)ヤクルト本社中央研究所 基礎研究一部 部長
田村 基 (独)農業食品産業総合研究機構 食品総合研究所 機能生理評価ユニット ユニット長
伊藤喜久治 東京大学 大学院農学生命科学研究科 教授
高橋恭子 日本大学 生物資源科学部 食品生命学科 講師
今岡明美 (株)ヤクルト本社 中央研究所 主任研究員
細野 朗 日本大学 生物資源科学部 食品生命学科 准教授
近藤直実 岐阜大学 大学院医学系研究科 小児病態学 教授
伊藤節子 同志社女子大学 生活科学部 食物栄養科学科 教授
大野博司 (独)理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター 免疫系構築研究チーム チームリーダー
西尾純子 東京大学 大学院医学系研究科 免疫学講座 特任助教
本田賢也 東京大学 大学院医学系研究科 免疫学講座 准教授
出雲貴幸 サントリーウエルネス(株) 健康科学研究所 主任研究員
池上秀二 明治乳業(株) 研究本部 食機能科学研究所 乳酸菌研究部 課長
西谷 啓 タカノフーズ(株) 開発部門 研究所 研究員
鈴木利雄 ダイソー(株) R&D本部 新事業推進部 次長
藤原 茂 カルピス(株) 発酵応用研究所 主席研究員
西村郁子 キッコーマン(株) 研究開発本部 基盤研究第3部 主任研究員
小幡明雄 キッコーマン(株) 研究開発本部 基盤研究第3部 部長
西谷洋輔 神戸大学 自然科学系先端融合研究環 重点研究部 助教
水野雅史 神戸大学 大学院農学研究科 生命機能科学専攻 応用生命化学大講座 糖鎖機能化学研究分野 教授
山本(前田)万里 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所 野菜・茶機能性研究チーム 研究チーム長
佐山浩二 愛媛大学 大学院医学系研究科 感覚皮膚医学 准教授
高岩文雄 (独)農業生物資源研究所 遺伝子組換え作物開発センター センター長
脇田義久 サッポロビール(株) 価値創造フロンティア研究所 上級研究員
木ノ内俊 明治乳業(株) 食機能科学研究所
森山達哉 近畿大学 農学部 応用生命化学科 准教授
小川 正 関西福祉科学大学 健康福祉学部 福祉栄養学科 教授
前田 理 (株)ハウス食品分析テクノサービス 分析サービス部 品質保証部 部長
平尾宜司 ハウス食品(株) 基礎研究部1グループ グループ長
山本貴之 (株)森永生科学研究所 研究開発部 製品第1担当リーダー
豊田正武 実践女子大学 生活科学部 教授
太田裕見 サントリーウエルネス(株) 健康科学センター 品質部 部長
免疫とはからだに侵入した病原細菌や病原ウイルスを排除するしくみであり,また,からだのなかに出現した内なる敵であるがん細胞を排除するしくみである。この働きでわたしたちは健康でいられるのである。現在,この免疫系のしくみの全貌はほぼ明らかになっており,その複雑さ,精密さはわれわれ生命の不思議と神秘を強く感じさせてくれる。
しかし,同時にこの繊細ともいえる免疫系は繊細であるがゆえに毎日摂る“食”の影響を受けやすい。食物の種類がアンバランスであったり,量が足りなかったりすると免疫の働きは低下する。逆に免疫系を維持するには必要なものを適量摂取すれば健康を保持できる。
この様に免疫系に食は重要な影響を与えているが,その理由はどこにあるのだろうか。
私は次の様に考えている。第一に免疫系は多くの種類の細胞から構成されている。そして,この細胞は血管,リンパ節を縦横無尽に動き廻っている。だから,この細胞に充分に働いてもらうためには栄養となる成分を充分に補給しなければならない。
第二に食物が最初に出会うのは最大の免疫系である腸管免疫系であるから,食物の与える影響の度合いも大きいし,その影響はからだ全体に及ぶこと必至である。
第三にからだ全体の免疫細胞の半分以上が腸に集中していることである。この細胞群は腸に入ってくる食物を排除するためではなく食物に混入し,からだへ侵入しようとしている外敵である菌やウイルスを排除するためのものである。しかし,食物を排除してはならないから,食物を受入れるしくみももっている。
したがって食物を監視し選ぶ働きがある。その高い能力を維持するには免疫細胞に合った適正な栄養が必要である。
以上のように食と免疫の関係は深いが両者の関係が良好でなければ,免疫系は異常状態に陥る。そして,感染症,アレルギー,がんなどの疾病を罹患するリスクが高まる。しかし,繰返すようであるが,適正な食を摂っていれば疾病の予防に繋がるのである。
本書はこのような背景を受けて,免疫系を調節し,からだに良い影響を与える食品「免疫機能性食品」について基礎的な側面と応用的な側面を現在第一線で活躍されている研究者の方々に執筆いただいたものである。
「基礎編」として最も関係の深い腸管免疫系,そして腸に生息し,免疫をはじめからだの生理状態に重要な影響を与える腸内細菌とその免疫系への作用を中心に執筆いただいた。
応用編では「免疫賦活編」として乳酸菌を中心とした免疫機能を高める食品成分そして「抗アレルギー編」としてアレルギーを抑制する食品成分について執筆いただいた。
さらに実際にアレルギーを起こさないように開発した食品について「低アレルゲン化編」そして最後にアレルギーが起こる食品成分を検査し,安全を保つために「検査・安全性編」を執筆いただいた。
以上の内容は免疫機能性食品の開発に従事しておられる方々に重要であるだけでなく,この分野に興味を抱かれる研究者の方々にも大いに役に立つと信じるものである。是非御一読いただきたい。
【基礎編】
第1章 腸管免疫系の構造と特性(南野昌信)
1. 腸管のリンパ組織
2. IgA産生細胞の分化と機能
3. 腸管上皮細胞間リンパ球の分化と機能
4. 腸管内抗原に対する免疫応答
5. おわりに
第2章 腸内フローラとその食物による変動(田村基,伊藤喜久治)
1. 腸内フローラと肥満との関係に関する知見
2. プロバイオティクスと腸内フローラ
3. プレバイオティクスと腸内フローラ
3.1 オリゴ糖
3.2 レジスタントスターチ
4. 食物繊維と腸内フローラ
5. タンパク質と腸内フローラ
6. 脂質と腸内フローラ
7. ポリフェノールと腸内フローラ
8. おわりに
第3章 腸内フローラと免疫機能(高橋恭子)
1. はじめに
2. 腸内フローラの免疫系に対する作用
2.1 腸管免疫系の発達
2.2 腸管免疫系の恒常性の維持及び機能の調節
2.3 腸内フローラと免疫疾患
3. 腸内細菌に対する免疫応答の制御―寛容と排除のバランス―
3.1 粘液および抗菌ペプチドの産生による腸内細菌の体内への侵入の抑制
3.2 獲得免疫応答の誘導とIgA抗体による腸内フローラ構成の維持
3.3 過剰な炎症反応の抑制
第4章 腸内細菌の定着と腸粘膜免疫応答(今岡明美)
1. はじめに
2. 腸粘膜免疫系の発達をもたらす腸内細菌種の検索
3. セグメント細菌の定着と腸粘膜免疫系の応答
4. clostridiaの定着と大腸粘膜免疫系の発達
5. 炎症性腸疾患と腸内細菌
6. ヒトフローラ動物の有用性
7. おわりに
第5章 乳酸菌の体内移動(細野朗)
1. はじめに
2. 経口摂取した乳酸菌・ビフィズス菌の腸管内における局在性と免疫反応の惹起
3. バクテリアル・トランスロケーション
4. 腸内共生菌が修飾する宿主免疫系の発達
5. おわりに
第6章 腸管粘膜免疫とアレルギーの制御(近藤直実)
1. 生体の粘膜系の機能
2. 腸管粘膜系とアレルギー
3. アレルギー,特に食物アレルギーの発症機序
4. 腸管粘膜免疫系でのアレルギーの制御
4.1 IgA産生機構
4.2 腸内細菌叢
4.3 経口免疫寛容誘導機構とアレルギーの制御
5. 経口免疫寛容誘導のアレルギー治療への応用
5.1 経口減感作療法(経口特異免疫療法)
5.2 抗原エピトープを修飾した新規食材の開発
第7章 食物アレルギーの発症機構(伊藤節子)
1. 食物アレルギーの定義・分類・症状
2. IgE-mediated food hypersensitivityとしての食物アレルギー
3. 食物アレルギーにおける免疫学的反応と発症に関わる要因
3.1 IgE依存性反応のおこり方と症状発症機序
3.2 食物アレルギーの成立に関わる因子 4. まとめ
第8章 腸管免疫応答に重要なM細胞の細菌認識受容体(大野博司)
1. はじめに
2. FAEとM細胞
3. M細胞上の細菌受容体
3.1 Glycoprotein 2
3.2 プリオン蛋白質
4. おわりに―新たな経口ワクチン開発の可能性―
第9章 腸内細菌の特定とIL-17産生細胞(西尾純子,本田賢也)
1. はじめに
2. Th17細胞とは
3. IL-17産生自然免疫細胞
4. IL-17産生細胞の機能
5. 腸内細菌によるIL-17産生細胞誘導
6. セグメント細菌によるTh17細胞誘導
7. 消化管IL-17産生細胞と疾患の関係
8. おわりに
【免疫賦活編】
第10章 乳酸菌の免疫調節作用(出雲貴幸)
1. はじめに
2. S-PT84株のT-helper 1(Th1)免疫活性化作用
3. S-PT84株のTh1免疫活性化作用に及ぼす乳酸菌培養温度の影響
4. S-PT84株の細胞壁構成成分に及ぼす培養温度の影響
5. S-PT84株の細胞壁厚みに及ぼす培養温度の影響
6. IL-12誘導作用と各種乳酸菌の細胞壁厚みとの関係
7. S-PT84株のヒト免疫機能に対する作用
8. おわりに
第11章 乳酸菌がつくるEPS(多糖体)の免疫賦活作用(池上秀二)
1. はじめに
2. 1073R-1乳酸菌が産生するEPS,1073R-1乳酸菌を使用したヨーグルトの免疫賦活作用
2.1 In vitroにおけるEPSのIFN-γ産生誘導活性
2.2 マウスへの経口投与によるNK活性増強効果
3. 1073R-1乳酸菌を使用したヨーグルトの健常高齢者における風邪症候群への罹患リスク低減効果
3.1 山形県舟形町での臨床試験
3.2 佐賀県有田町での臨床試験
3.3 2つの臨床試験結果のメタ解析
4. 1073R-1乳酸菌を使用したヨーグルト,EPSの抗インフルエンザウイルス活性
5. おわりに
第12章 納豆菌の免疫賦活作用(西谷啓)
1. はじめに
2. 納豆菌のIL-12 p40誘導能
3. アトピー性皮膚炎モデルマウスに対する納豆菌の効果
4. 抗原誘発鼻汁漏出モデルモルモットに対する納豆菌の効果
5. 免疫機能性の高い納豆の開発とヒト介入試験
6. おわりに
第13章 微生物多糖の生理機能―黒酵母由来β-1,3-1,6-グルカンの免疫賦活・調節作用―(鈴木利雄)
1. はじめに
2. 微生物多糖について
3. 生理機能と多糖
4. 発酵法によるβ-1,3-1,6-グルカンの生産
5. 可溶化β-1,3-1,6-グルカンの安全性と生理機能について
5.1 既存添加物としての黒酵母Aureobasidium pullulansの培養液
5.2 急性経口毒性試験
5.3 28日反復経口投与試験(亜急性毒性試験)
5.4 皮膚・眼粘膜に対する刺激試験
5.5 ヒトパッチ試験
6. 可溶化β-1,3-1,6-グルカンの生理機能と免疫機能とのかかわりについて
6.1 可溶化β-1,3-1,6-グルカンの免疫賦活効果について
6.2 腸管免疫賦活効果について
6.3 抗腫瘍および抗癌転移効果について
6.4 抗I型アレルギー作用について
7. ストレスと免疫調節効果について
7.1 可溶化β-1,3-1,6-グルカンによるストレス低減効果
7.2 可溶化β-1,3-1,6-グルカンによる免疫機能改善効果について
8. おわりに
【抗アレルギー編】
第14章 乳酸菌の花粉症抑制作用(藤原茂)
1. はじめに
2. スギ花粉の飛散状況と罹患者数の変化
3. スギ花粉症の発症機序
4. 衛生仮説
5. 衛生仮説修正と初期腸内細菌叢の構成
6. 乳酸菌によるアレルギー抑制
7. 乳酸菌の選抜
8. 乳酸菌と花粉症の改善
9. 乳酸菌による花粉症の改善機構
10. おわりに
第15章 しょうゆ諸味由来乳酸菌Tetragenococcus halophilus KK221(Th221株)の抗アレルギー作用(西村郁子,小幡明雄)
1. はじめに
2. 抗アレルギー作用の強い乳酸菌の選抜
3. KK221の経口摂取によるTh1誘導の確認
4. アレルギーモデルマウスを用いた試験
5. 通年性アレルギー性鼻炎ボランティアを対象とした臨床試験
6. おわりに
第16章 プロバイオティクスの炎症性腸疾患抑制作用(西谷洋輔,水野雅史)
1. はじめに
2. プロバイオティクスが腸管炎症に及ぼす作用について
2.1 粘膜免疫応答の制御
2.2 腸管上皮細胞機能の制御
3. Lactococcus lactis subsp.cremoris FCの腸管炎症抑制作用について
3.1 in vitro腸管炎症モデルにおけるL.lactis subsp.cremoris FCの抗炎症作用
3.2 L.lactis subsp.cremoris FCによるDSS誘導性腸炎の抑制効果
4. おわりに
第17章 緑茶の抗アレルギー作用(山本(前田)万里)
1. はじめに
2. アレルギー発症の機序と茶のアレルギー抑制作用
3. 茶葉中抗アレルギー物質
3.1 メチル化カテキン類
3.2 ストリクチニン
3.3 メチル化カテキンを多く含む茶品種とヒト介入試験
4. おわりに
第18章 微粒子化シイタケ由来成分レンチナンの抗アレルギー作用(佐山浩二)
1. はじめに
2. 微粒子化レンチナン
3. Th1/Th2バランスとアレルギー
4. アレルギー性結膜炎に対する効果
5. アトピー性皮膚炎に対する効果
6. 安全性に関して
7. 効果発現のメカニズムと今後の臨床応用
第19章 スギ花粉症緩和米の開発(高岩文雄)
1. はじめに
2. 免疫寛容に関わる腸管粘膜免疫組織
3. 種子を介した腸管関連免疫組織へのデリバリーシステム
4. イネ種子をバイオリアクターとして利用した抗原生産の利点
5. 経口免疫寛容を利用した“食べるワクチン米”の開発
6. スギ花粉症緩和米の現状と今後
第20章 ホップ水抽出物の花粉症軽減効果(脇田義久)
1. はじめに
2. ホップ水抽出物の性状および安全性
3. ヒト試験の方法
4. 結果
5. おわりに
【低アレルゲン化編】
第21章 ミルクアレルギーの赤ちゃんのためのペプチドミルク(木ノ内俊)
1. はじめに
2. ミルクアレルギー児にとってのペプチドミルクの有用性
2.1 ミルクアレルゲン症状の除去
2.2 カゼイン分解物と乳清たんぱく質分解物の違い
3. ペプチドミルクの栄養学的特殊性
3.1 栄養素の吸収,利用効率と発育
3.2 ビオチン等の不足
3.3 肝機能
3.4 ペプチドミルクの風味
3.5 消化を要するたんぱく質の摂取の重要性
4. おわりに
第22章 低アレルゲン化大豆加工食品の開発(森山達哉,小川正)
1. はじめに
2. 食物アレルギーの多様性と原因アレルゲン
3. 大豆のクラス1食物アレルゲン
4. 大豆のクラス2食物アレルゲン
5. その他の特殊な大豆のアレルギー
6. 低アレルゲン化大豆加工食品の開発と流通システムの構築
6.1 アレルギーリスク低減化と実用化の戦略
6.2 アレルゲン性の評価法の確立
6.3 低アレルゲン大豆の創出
6.4 発酵食品のアレルゲン性
6.5 物理化学的手法による低減化
6.6 酵素利用による低減化食品
6.7 化学的修飾による低減化
6.8 低アレルゲン化加工食品の流通システムの構築
【検査・安全性編】
第23章 アレルギー物質を含む食品の検査法(前田理,平尾宜司)
1. はじめに
2. 食物アレルギー表示制度の概要
3. アレルギー物質を含む食品の検査法
3.1 ELISA法
3.2 ウエスタンブロット法
3.3 イムノクロマト法
3.4 LC-MS/MS法
3.5 定性PCR法
3.6 定量PCR法
4. 日本のアレルギー物質を含む食品の通知試験法
5. 検査上の注意点
6. まとめ
第24章 加工食品にも対応可能な食品アレルギー用検査キット(山本貴之)
1. はじめに
2. 定量スクリーニングとしてのELISA法
3. 従来測定法の問題点と解決方法
4. 加工食品の測定例
5. 新たに抱えるELISA法の問題点と対応
6. ELISA法以外の特定原材料検査について
7. おわりに
第25章 アレルギー物質を含む食品の表示(豊田正武,太田裕見)
1. これまでの経緯
2. 表示対象品目
3. 代わりの表記について
4. アレルギー物質の表示方法
5. 複合原材料について
6. 表示義務がない場合
7. コンタミネーションについて