下村政嗣 千歳科学技術大学
平坂雅男 (公社)高分子学会
宮内昭浩 (株)日立製作所
中川徹 パナソニック(株)
山﨑英数 富士フイルム(株)
伊藤晃寿 富士フイルム(株)
藪浩 東北大学
澤田勉 ソフトフォトニクス(同)
魚津吉弘 三菱レイヨン(株)
井須紀文 (株)LIXIL
鷹尾雄祐 日本ペイントマリン(株)
大塚雅生 シャープ(株)
公文ゆい シャープ(株)
福田光男 (株)ライトニックス
生物の構造や機能を解析し、製品開発に活かす生物模倣技術―バイオミメティクス―は、前世紀末ごろからのナノテクノロジーや顕微観察技術の飛躍的な発展に伴い、新たな盛り上がりをみせています。生物と工学の異分野連携によってもたらされる技術は幅広く、撥水材料や低反射フィルムをはじめ、各種構造材料が開発されてきています。
世界中で研究開発が加速する中、バイオミメティクスの国際標準化が急務とされ、2011年10月にISO/TC266 Biomimeticsが発足しました。TC266では以下の4つのワーキンググループ(WG)について議論が進められています。
・WG1: Terminology、 concepts and methodology
・WG2: Materials、 structures and components
・WG3: Biomimetic structure optimization
・WG4: Knowledge infrastructure of biomimetics
このうち、2015年には「WG1(定義)」と「WG3(最適化手法)」が発行され、「WG2(構造・材料)」についても2016年はじめには発行される見込みとなっています。国際的な枠組みが整うのに伴い、バイオミメティクスのさらなる展開が期待されます。
本書では、はじめにバイオミメティクス全体を俯瞰したご解説と国際標準化の動向について、ご解説をいただいております。さらに、本書前半では、すでに製品化されている、あるいは製品化を見越し研究開発を進められている企業の皆様にその成果をご解説いただき、後半では広義の生物模倣技術も含めたバイオミメティクスの動向について国内外の市場や企業の取り組みをまとめることで、関連技術を持つ研究機関や企業にとって、生物に学ぶ技術開発の実現につながる資料となる書籍を目指しました。本分野に関連する方々、また参入をご検討されている方々に、ぜひお役立ていただければ幸いです。
最後となりましたが、本書の作成にあたり、お忙しい中原稿をお寄せいただきましたご執筆者の皆様、ご助言を賜りました皆様に、厚く御礼申し上げます。
(本書「刊行にあたって」より)
【総論】
第1章 バイオミメティクスの現状と産業化への展望 (下村政嗣)
1 はじめに―何故、今、バイオミメティクスなのか?を再度問う
2 バイオミメティクスは温故知新であり、ロボティクスであり、ナノテクノロジーであり、そしてエコロジーである
2.1 バイオミメティクスの黎明と分子系バイオミメティクスの台頭
2.2 機械系バイオミメティクスの潮流
2.3 新潮流、材料系バイオミメティクスによるルネサンス
2.4 生態系バイオミメティクスのトレンド
3 バイオミメティクスは“生物から工学への技術移転”であり、情報科学が必要である
3.1 産業界はバイオミメティクスをどう見ているのか
3.2 国際標準化の動き
3.3 バイオミメティクス・データベース
3.4 バイオミメティクスの特許動向
3.5 オープンサイエンス、オープンイノベーションのプラットフォームとしての博物館
4 バイオミメティクスは、パラダイムシフトでありイノベーションである
4.1 進化適応は壮大なるコンビナトリアル・ケミストリー
4.2 深読み、バイオミメティクスとIndustrie 4.0
4.3 自己組織化はバイオミメティクスのキーテクノロジーである
5 おわりに
第2章 バイオミメティクスの国際標準化 (平坂雅男)
1 経緯
2 ISO 18458: Terminology、 concepts and methodology
3 ISO 18459: Biomimetics-Biomimetic structural optimization
4 ISO 18457: Biomimetics-Biomimetic materials、 structures and components
5 今後の展開
5.1 日本提案
5.2 標準化のプロセスの透明性
5.3 持続可能性
5.4 国際標準の活用
【開発編 バイオミメティクスを利用した新材料・新技術開発】
第1章 ナノインプリントを用いたバイオミメティクスデバイスの開発 (宮内昭浩)
1 はじめに
2 ナノインプリントによる表面構造の複製
3 ナノインプリントによる機能表面の形成
3.1 物理的機能
3.2 生物的機能
4 まとめ
第2章 界面張力を用いた自己組織化実装技術 (中川徹)
1 はじめに
2 実装原理
3 シリコンナノワイヤとシリコン板を実装する
4 シリコンナノワイヤとシリコン板の実装
5 今後の展開
第3章 自己織化による3次元構造ハニカムフィルムの生産技術開発とその応用
(山﨑英数 / 伊藤晃寿 / 下村政嗣 / 藪浩)
1 はじめに
2 3次元構造ハニカムフィルムとは
3 自己組織化を利用した3次元構造ハニカムフィルムの生産技術
4 3次元構造ハニカムフィルムの応用について
4.1 細胞培養基材
4.1.1 血管内皮細胞の培養例
4.1.2 神経幹細胞の培養例
4.1.3 培養基材の機械的特性影響評価例
4.1.4 マイクロウェルチップへの応用例
4.2 医療材料
4.3 フィルター
4.4 濡れ性制御
5 おわりに
第4章 変形で色の変わるゴム:弾性構造色シート「フォトニックラバー」 (澤田勉)
1 はじめに
2 構造色を示す微粒子の周期構造:フォトニック結晶
3 自律形成する微粒子の周期配列:コロイド結晶
4 大面積の配向体をつくる
5 弾性変形するコロイド結晶材料:フォトニックラバー
6 フォトニックラバーの構造色特性
7 フォトニックラバーの応用
8 あとがき
第5章 光学用モスアイ型無反射フィルム (魚津吉弘)
1 緒言
2 モスアイ型反射防止構造とその作製方法
3 アルミニウムの陽極酸化を利用したモスアイ金型の作製
4 光ナノインプリントによるモスアイ型反射防止フィルムの作製
5 モスアイ型反射防止フィルムの光学性能
6 おわりに
第6章 カタツムリに学ぶ住まいの防汚・抗菌技術 (井須紀文)
1 はじめに
2 水使用量と防汚技術による削減
3 カタツムリの防汚技術
3.1 カタツムリの殻と住宅
3.2 カタツムリの防汚技術
4 適材適所の住空間の防汚技術
4.1 タイルの防汚技術
4.2 トイレの防汚・抗菌技術
4.2.1 水アカ汚れを防ぐ防汚技術
4.2.2 細菌汚れを防ぐ抗菌技術
5 おわりに
第7章 マグロの皮膚に学ぶ低燃費型船底防汚塗料の技術 (鷹尾雄祐)
1 はじめに
2 船底防汚塗料の歴史
3 高速遊泳能力を持つ海洋生物に学ぶ
4 摩擦抵抗を低減する船底防汚塗料の開発
5 おわりに
第8章 家電製品へのバイオミメティクスの応用 (大塚雅生 / 公文ゆい)
1 はじめに
2 エアコン室外機に鳥を応用
2.1 用いた鳥の翼の特徴と効果
2.1.1 アホウドリの翼平面形を応用
2.1.2 イヌワシの翼平面形を応用
2.1.3 小翼羽により剥離を防止
2.2 製品の性能革新
2.3 性能革新のメカニズム
3 エアコン室内機にトンボを応用
3.1 用いたトンボの翅の特徴と効果
3.1.1 トンボの翅の断面形を応用
3.1.2 用いるのが困難な航空機翼型
3.1.3 トンボの翅の断面形を航空機翼型に融合した新概念の翼断面形状により二律背反を打破
3.2 製品の性能革新
3.3 性能革新のメカニズム
4 縦型洗濯機にイルカを応用
4.1 用いたイルカの尾びれ・表皮しわの特徴と効果
4.1.1 イルカの尾びれを応用
4.1.2 イルカの表皮しわを応用
4.2 製品の性能革新
5 扇風機に蝶を応用
5.1 用いた蝶の翅の特徴と効果
5.1.1 効率と快適性の間のトレードオフ解消
5.1.2 拡散性・直進性(収束性)に関するニーズと物理現象の間のジレンマ解消
5.2 製品の性能革新
6 その他の生物模倣技術の事例紹介
6.1 ネコ科動物の舌の表面構造応用 サイクロンゴミ圧縮ブレード技術
6.2 ペンギンの翼/円環状魚群応用 炊飯器撹拌ブレード技術
6.2.1 ペンギンの後退翼を応用
6.2.2 円環状魚群の習性を応用
6.3 アマツバメの翼の平面形応用 ドライヤー用ファン技術
6.4 ひまわりの種の配列(フィボナッチ)応用 洗浄促進突起技術
7 おわりに
第9章 「痛みを感じない蚊の針を模倣した注射針の商品化」
~バイオミメティクスは、ごみを残さない新しい持続型医療産業に役立つ~ (福田光男)
1 はじめに
2 本製品の概要および使用目的
3 本製品の特徴
4 本製品の使用材料
5 本製品の生産プロセス
6 今後の展開
7 まとめ
【市場編 バイオミメティクス開発動向】
第1章 国内外におけるバイオミメティクスの潮流
1 バイオミメティクスの概要
1.1 定義
1.2 バイオミメティクスの意義
1.3 先駆的なバイオミメティクス事例
1.4 バイオミメティクス研究開発の推進力
1.5 「生体規範工学」としてのバイオミメティクス(バイオミミクリー)
1.6 バイオミメティクスの経済効果
2 バイオミメティクスをめぐる国内外の動向
2.1 海外動向
2.1.1 欧州
2.1.2 ドイツ
2.1.3 フランス
2.1.4 イギリス
2.1.5 オーストリア
2.1.6 その他の欧州諸国
2.1.7 米国
2.1.8 アジア
2.1.9 研究開発の現状
2.2 日本国内の動向
2.2.1 研究開発体制の整備へ向けた動き
3 特許出願から見たバイオミメティクス技術の状況
3.1 出願件数
3.2 技術区分
3.3 出願人別動向
4 バイオミメティクスの国際標準化
第2章 バイオミメティクスの模倣対象別研究開発動向
1 主に生物が持つ機能を模倣した研究開発
1.1 ハスの葉のロータス効果
1.2 カタツムリの模倣によるナノ親水技術
1.3 ヤモリのファンデルワールス力
1.4 マグロの体表面のトムズ効果
1.5 トンボの羽の断面構造
1.6 フナムシの脚の微細構造
1.7 ハムシ&テントウムシの足裏の微細構造
1.8 蛍の発光原理
1.9 カイメンの生体機能
1.10 タコの吸盤の吸着機能
1.11 ムール貝の足糸の付着機能
1.12 オジギソウの就眠運動
1.13 クラゲの移動の仕組み
1.14 ヘビの移動の仕組み
1.15 サソリの移動の仕組み
1.16 ミミズの移動の仕組み
1.17 コウモリの超音波
1.18 カメレオンの舌の捕食機能
1.19 ブルーギルの胸ビレの推進機能
1.20 サンドキャッスル・ワームの接着機能
1.21 ザリガニの殻のACC安定化機能
1.22 人間の神経細胞(ニューロン)の模倣
1.23 オオアハタウミベハネカクシの羽の機能
1.24 蟻の体毛の体温調整機能
2 生物の構造を模倣した研究開発
2.1 カエデの種
2.2 モルフォ蝶の鱗粉表面の積層構造(構造色)
2.3 タマムシの発色機構
2.4 蛾の複眼の微細構造(モスアイ構造)
2.5 キツツキの衝撃吸収の仕組み
2.6 クモの糸の多角形状構造
2.7 ザトウムシの生体構造
3 センシング
3.1 生物の眼の構造をまねた曲面CMOSセンサ
3.2 ヒトの眼球運動機能の模倣
3.3 ロブスターの複眼の模倣
3.4 昆虫操縦型ロボット
3.5 クモの足の微細構造
3.6 ヒトの肌の積層構造
3.7 オパールの結晶構造の模倣(ポリマー固定化コロイド結晶膜)
4 構造体としての生物を模倣した研究開発
4.1 樹木のフラクタル形状
5 生物の表面構造に学ぶ機能性材料の創製プロセスの研究開発
5.1 自己組織化によるハニカムフィルムの作製
5.2 自己治癒機能を持つ皮膜の開発
5.3 ブロック共重合体を用いた構造色材料の開発
第3章 用途市場別バイオミメティクス製品化の動向
1 材料・素材用途分野
1.1 親水性、疎水性材料
1.2 構造発色材料
1.3 光学材料
1.4 低抵抗、低摩擦材料
1.5 接着性・粘着性材料
1.6 防汚材料
1.7 その他のビオミメティクス系材料
2 家電その他最終製品用途
3 ヘルスケア
4 ロボット・機械
5 環境・エネルギー
6 構造体(デザインなど)
7 生産プロセス(自己組織化)
第4章 バイオミメティクス関連企業動向
1 シャープ
2 日立製作所
3 大日本印刷
4 帝人グループ
5 三菱レイヨン
6 Speedo International Limited
7 Festo
8 バイオパワーシステムズ(BPS)
9 積水化学工業
10 フラウンホーファー研究機構
11 京都リサーチパーク(KRP)